「未登録ユーザー」をひとくくりにしない — 自治会アプリの残り6世帯を原因で3つに分けた話

2026.05.23
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はじめに — 「未登録◯人」という数字は、それだけでは打ち手を教えてくれない

「登録がまだ済んでいない人が、あと6人います」。サービスを運営していると、こういう数字をよく目にします。アプリの管理画面の隅に出る未登録の件数、案内を送ったのに反応がない人の数、登録だけして使い始めていない人の数。数字は分かりやすいので、つい「6人か、もうひと押し声をかけよう」と、その数字のままで打ち手を決めてしまいがちです。

私は、自治会の業務をスマートフォンのアプリに置き換える開発をしています。回覧板や安否確認をアプリで確認できるようにするものです。この記事は、そのアプリの登録がまだ済んでいない数世帯を前にしたときに、「未登録◯世帯」というひとつの数字のまま扱うのをやめ、登録できていない原因で3つのクラスタに分け直した、その判断の記録です。

結論を先に書きます。未登録のユーザーをひとくくりの数字で見ているうちは、打ち手は「もっと声をかける」のような画一的なものにしかなりません。原因で分けて初めて、アプリの不具合を直すべきなのか、ログインの選択肢を増やすべきなのか、それとも人が動く運用を設計すべきなのか、力を注ぐ先が見えてきます。同じように「登録してくれる人がなかなか増えない」という状況を抱えている方には、この分け方ごと参考にしてもらえると思います。

18世帯中12世帯が登録した、その「残り6」をどう見るか

このアプリの開発には、少し変わった事情があります。私はアプリの開発者であると同時に、導入先である自治会の役員でもあります。つまり、自分が作ったものを、自分が現場で使う立場にいます。設計する側と、現場で使う側を、一人で兼ねているわけです。

きっかけは、自治会の理事を対象にしたアプリの説明会でした。理事というのは、住民が順番に引き受ける役のことです。この説明会の対象になったのは18世帯。説明会ではアプリの使い方を説明し、登録そのものはその場ではやらず、各自に持ち帰ってもらう形にしました。説明会の場で全員にその場で登録してもらう進め方もありますが、今回はあえて持ち帰りにしました。

その1週間後、登録状況を確認しました。18世帯のうち、12世帯が登録を完了していました。

12という数字そのものは、持ち帰り型の説明会の結果としては悪くありませんでした。その場の勢いや、まわりの人の助けがない状態で、配布した案内だけを頼りに12世帯が自力で登録できた。これは、案内のつくりが機能した証拠だと受け止めました。

ただ、このとき私の関心が向いたのは、登録できた12のほうではなく、登録できていない残りの6のほうでした。この6世帯を、これからどう扱えばいいのか。説明会から1週間が経って、ここからが本当の運用の始まりでした。そして、この「残り6」をどう捉えるかで、次の1ヶ月の動き方がまるごと変わってきます。

「未登録6世帯」とまとめた瞬間、打ち手が画一的になる

最初に頭に浮かんだのは、ごく自然な分類でした。「未登録6世帯」。登録できた12、できていない6。きれいに二つに分かれます。進捗を一行で報告するなら、これで十分なはずでした。

ところが、「未登録6世帯」と書いた瞬間に、次に出てくる打ち手まで一行になってしまうことに気づきました。「未登録の6世帯に、もう一度声をかける」。この分類からは、それ以外の打ち手が出てこないのです。

開発日記には、このときの引っかかりをこう書き残しました。

「未登録世帯=単一カテゴリ」と扱うと、対策も画一的になる。

未登録という「状態」は同じでも、なぜ未登録なのかという「原因」は、1世帯ずつ違うはずです。その「なぜ」を捨てて件数だけを見ていると、思いつく打ち手が「声をかける」というひとつに痩せていく。そして、声をかけても動けない人に何度も声をかけ続けて、お互いに徒労が積み上がっていきます。

数字は、分かりやすい代わりに、原因を覆い隠します。「6」というなめらかな数字が、その6世帯がまったく違う事情を抱えているという事実を、見えなくしてしまう。ここで一度立ち止まって、「6」を分解する必要がありました。「残り6世帯」というまとめ方のままでは、私はこの先ずっと「声をかける」というひとつの手札しか持てません。

原因で3つに分けてみる

そこで、残りの6世帯を「なぜ登録できていないのか」という原因で並べ直しました。すると、6世帯は3つのクラスタに、ふたつずつきれいに分かれました。

一つ目は、ログインに使う LINE を、そもそも使っていない世帯でした。このアプリは、スマートフォンに新しいパスワードを覚えてもらわずに使い始められるよう、ふだん使っているサービスのアカウントでログインする方式をとっています。その入口の一つが LINE です。ところが高齢の方の中には、LINE を使っていない方が一定数います。LINE を入口にしている限り、この世帯はどれだけ声をかけても登録のしようがありません。本人の意欲とは関係なく、入口そのものがその人の前に存在していないからです。

二つ目は、登録の途中で技術的につまずいた世帯でした。アプリを開いて手続きを始めようとしたものの、iPhone を使っている世帯の一部で、登録が最後まで進まない不具合がありました。本人に登録の意思はあって、操作も試みている。それなのに、アプリの側に原因があって完了できない。これは、こちらの落ち度でした。

三つ目は、理由が分からない世帯でした。LINE は使っている。端末の不具合も出ていない。技術的には登録できる条件がそろっているのに、登録されていない。説明会の場では「登録したい」という前向きな意思表示もありました。それなのに、1週間経っても手がついていない。なぜ進んでいないのか、こちらからは見えませんでした。

同じ「未登録」というひとことの中に、入口がそもそも存在しない世帯、入口で転んだ世帯、入口の前で立ち止まっている世帯。三つのまったく違う状況が同居していました。並べ直してみて初めて、「未登録6世帯」というまとめ方が、いかに多くのものを握りつぶしていたかが分かりました。

どのクラスタかで、打ち手の向きが変わる

この3つを並べてみて、ここで一度、実装を担当している Claude Code と整理をしました。せっかく原因で3つに分けても、結局「未登録6世帯」というまとまりに戻して扱うのなら、分けた意味がないからです。

ZeronovaZeronova
残りの6世帯を、原因で3つに分けてみた。LINE を使っていない世帯、登録の途中で不具合につまずいた世帯、理由が分からない世帯。ただ、こうやって分けても、現場でやることが結局「全員に声をかける」で一緒なら、わざわざ分ける必要はない気もする。
Claude Code
一緒にはなりません。3つのクラスタは、必要な打ち手が根本的に違います。LINE を使っていない世帯は、いくら声をかけても、LINE を入口にしている限り登録できません。必要なのは LINE 以外のログイン手段を用意することです。登録の途中でつまずいた世帯は、声かけではなくアプリ側の不具合修正が要ります。「声をかける」が打ち手として効くのは、三つ目の理由が分からない世帯だけです。
ZeronovaZeronova
つまり、ログインの選択肢を増やす話、アプリを直す話、人が動く話。打ち手が三方向に分かれるということか。
Claude Code
はい。そして逆向きにも成り立ちます。不具合をどれだけ丁寧に直しても、LINE を使っていない世帯は救えません。声かけをどれだけ熱心にやっても、不具合でつまずいている世帯は完了できません。打ち手はクラスタの境界を越えて効かないので、「6世帯」とまとめたまま一つの打ち手を打つと、それはどうやっても6分の2にしか当たらないことになります。
ZeronovaZeronova
それなら、6世帯というまとめ方には戻さない。3クラスタのまま、それぞれに別の打ち手を割り当てる。

この対話で、「分けたまま扱う」ことが確定しました。クラスタに分けることの価値は、分けたあとも分けたまま打ち手を考え続けて、初めて生まれます。

クラスタごとに、お金と労力の出どころが違う

3つのクラスタに別々の打ち手を割り当てると、もう一つ大事なことが見えてきました。打ち手によって、お金と労力の出どころが違うのです。

LINE 以外のログイン手段を増やすのも、不具合を直すのも、開発の作業です。エンジニアの時間、つまり技術への投資です。一方、理由が分からない世帯に声をかけ、ときには戸別に訪ねて登録を手伝うのは、人が動く運用への投資です。担当を決め、訪問の段取りをし、当日の人手を確保する。技術とはまったく別の財布から出ていきます。

開発日記には、この点をこう書きました。

技術修正をいくら重ねても「理由不明」クラスタは救えない。逆に運用設計をいくら磨いても「LINE非利用」「iPhone失敗」は救えない。クラスタごとに必要な投資先が違うことを、最初の分類で明確化するのが重要。

「未登録6世帯」とひとくくりにしていたら、「未登録対策にいくらかける」という一本の予算しか立てられません。けれど原因で分けてあれば、「技術の修正にこれだけ、人が動く運用にこれだけ」と、二つの財布それぞれに見積もりを立てられます。

これは、規模が大きくなるほど効いてきます。今回登録を進めたのは理事の18世帯ですが、いずれは自治会の全体に広げていきます。全体では342世帯あります。そのとき、「未登録になるのは何世帯か」だけが分かっていても、予算は組めません。「そのうち技術で救えるのは何世帯で、人の運用で救うしかないのは何世帯か」まで分かって、初めて技術と運用に別々の見積もりを立てられます。

ひとつ、正直に添えておきたいことがあります。今回の18世帯は自治会の理事、つまり地域のデジタル化に前向きな層です。全体に広げれば、理由が分からないクラスタの比率は、もっと厚くなる可能性が高い。だから今のクラスタの比率をそのまま全体に掛け算するのは、楽観的すぎます。それでも、「原因の内訳」という形を先に持っておけば、数字が集まってきたときに、より確かな比率へ置き換えていけます。正確な数字そのものより、内訳という器を先に用意しておくことに意味がありました。

「理由が分からない」クラスタだけ、時間が敵になる

3つのクラスタには、もう一つ大きな違いがありました。時間の流れ方です。

技術的な2つのクラスタ、つまり LINE を使っていない世帯と、不具合でつまずいた世帯は、時間に対して安定しています。LINE 以外のログイン手段を用意すれば、その日から登録できるようになる。不具合を直せば、その日から登録できるようになる。打ち手を打つまでは登録できないし、打てば登録できる。それまで待っているあいだも、状況そのものが悪くなることはありません。直せば、人は戻ってきます。

ところが、理由が分からないクラスタは違いました。こちらは、時間が経つほど、未登録のまま残っている世帯がこのあと新しく登録してくれる可能性が下がっていく性質を持っています。一度登録した世帯が解除されるという話ではなく、いま未登録の人がこれから登録に進んでくれる見込みのほうが、時間とともに薄くなっていく、という意味です。

開発日記には、このクラスタの危うさを、1週間後よりも1ヶ月後のほうが状況は厳しくなる、と書きました。なぜ厳しくなるのか。説明会の熱が冷めて関心が薄れる。配布した案内の紙をなくす。周りの世帯がどんどん登録していく中で「自分だけ取り残された」と感じて、かえって声を上げにくくなる。時間は、技術的なクラスタにとっては中立ですが、理由が分からないクラスタにとっては敵でした。

技術的なクラスタが「直せば戻ってくる」のに対して、理由が分からないクラスタは「放っておくと、本人にもはっきり自覚されないまま、静かに諦めていく」。私はこれを、静かな離脱、サイレント・ドロップアウトと呼んで警戒することにしました。声を上げて「やめます」と言うわけではないので、件数だけを見ていると、そこで何かが失われたことにすら気づけません。気づけないまま、その人は未登録のまま立ち止まり続け、こちらに戻ってこなくなります。

だから、3つのクラスタは「同じ未登録」でも、対応の緊急度が違います。技術的なクラスタは、修正の予定さえ立てておけば、慌てる必要はない。けれど理由が分からないクラスタは、早く動かないと手が届かなくなる。「未登録6世帯」とまとめていたときには、この緊急度の差も、平らにならされて見えなくなっていました。次の理事会でこの世帯に直接たずねることを、私は緊急度の高い課題として置き直しました。

あなたのプロダクトの「未登録ユーザー」も一種類ではない

ここまで自治会アプリの話をしてきましたが、「未登録ユーザーをひとくくりにしない」という考え方は、もっと広い場面に置き換えられます。

サービスを作っていれば、たいてい「まだ使い始めていない人」を抱えています。無料登録だけして放置されているアカウント、招待を送ったのに返事がない相手、買ったのにまだ開いていない人。そういう人たちは、管理画面では「未利用◯人」のような、ひとつの数字で表示されます。数字はなめらかなので、つい「お知らせのメールを送ろう」というひとつの打ち手で片づけたくなります。

でも、その◯人の中には、おそらく今回の3クラスタと同じ構造があります。

機能の入口でつまずいている人。これは、こちらの技術で直せます。前提となる環境や条件がそろっていない人。たとえば対応していない端末を使っている、必要なアカウントを持っていない。これは、選択肢を増やすしかありません。そして、条件はそろっているのに、なぜか動いていない人。これは、技術ではなく人の働きかけでしか動きません。原因が違えば打ち手が違い、打ち手が違えば力の注ぎ先が違い、注ぎ先が違えば緊急度も違う。今回の自治会の6世帯で起きていたことは、登録や定着につまずく人を抱えるサービスなら、どこでも起こりうることです。

大事なのは、いちばん最初の分類です。「未登録◯人」とまとめた最初のひと筆が、その後に出てくる打ち手の幅を、ほぼ決めてしまいます。ひとくくりにすれば打ち手はひとつになり、原因で分ければ打ち手は原因の数だけ出てきます。集計の数字は、分けずに眺めているあいだは「分かりやすい」という顔をしていますが、その分かりやすさは、打ち手を狭めることと引き換えになっています。

だからもし、あなたが「未利用のユーザーがなかなか減らない」という数字を眺めているなら、打ち手を考える前に、ひとつ手前の問いに戻る価値があります。この数字は、原因で何種類に分かれるのか。その問いに答えるまで、打ち手を決めない。

むすび — 最初の分類が、その後の打ち手を決める

最初に戻ります。「登録がまだ済んでいない人が、あと6人います」という一行。この一行を眺めたまま打ち手を考えると、出てくるのは「もっと声をかける」だけでした。

その6を、登録できていない原因で3つに分け直したら、景色が変わりました。LINE という入口が存在しない世帯には、入口を増やす。入口で転んだ世帯には、不具合を直す。入口の前で立ち止まっている世帯には、人が出向く。打ち手は三方向に分かれ、お金の出どころも、対応の緊急度も、それぞれ別々に見えるようになりました。

それ以来、未登録や未利用の数字を見たときに、すぐ打ち手を考えないようにしています。先に「この数字は、原因で何種類に分かれるのか」を問う。クラスタに分け終わるまでは、打ち手の話はしない。これを、自分の中の小さな決まりごとにしました。

未登録のユーザーは、一種類ではありません。同じ数字の中に、こちらが直せる人、選択肢を増やせば動ける人、人が出向くしかない人が同居しています。それを分けて見るか、ひとくくりの数字のまま見るか。最初の分類のひと筆が、その後の打ち手のすべてを決めていました。

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呑名 健造(Zeronova) avatar

Zeronova呑名 健造

PdM × AI-Native Builder × Senior UX × Civic Tech

Web/IT業界19年以上・20以上のWebサービスを担当した PdM。コロプラ子会社(株式会社ビジプル)元代表として事業経営を経験。現在はシニア向け BtoC プラットフォームの PdM、かんたん連絡網合同会社(自治会DX)・Koship合同会社の共同代表として ZERONOVA LAB を並行運営。

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