X 風オンボーディングチェックリストの実装 — 初回体験で離脱を防ぐ UX パターン

2026.02.12
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SaaS に登録した直後、「で、何をすればいいの?」と戸惑ったことはないでしょうか。ダッシュボードが真っ白で、メニューは並んでいるけれど、どこから手をつければいいかわからない。その瞬間にブラウザのタブを閉じてしまった経験は、誰にでもあるはずです。

フリーランス向けの案件管理ツール Wakulier の開発でも、まさにこの問題に直面しました。登録してくれたユーザーが、最初の画面で何をすべきかわからず離脱してしまう。機能がどれだけ充実していても、初回体験で迷子になったら意味がありません。

この記事では、X(Twitter)のアカウント設定UIを参考に Claude Code で実装した「オンボーディングチェックリスト」の設計判断と、そこから得た学びを共有します。

なぜオンボーディングが重要なのか

SaaS の世界では「初回体験(First Time Experience)」が継続率を大きく左右するといわれています。ユーザーが最初の数分で価値を感じられなければ、二度と戻ってきません。

Wakulier は依頼者(クライアント)とワーカー(フリーランス)の双方が使うサービスです。特に依頼者側は、「案件を登録して、ワーカーに依頼する」という一連の流れを体験しないと、ツールの価値がわかりません。しかし登録直後のダッシュボードは空っぽで、何から始めればいいかが見えない。

2026年1月5日の開発日記にはこう書いています:

オンボーディングチェックリスト: 新規ユーザーが「次に何をすべきか」を迷わないように。Xのアカウント設定を参考

「迷わないように」。この一言に、課題のすべてが集約されています。ユーザーは「このツールは使えそうだ」と思って登録したのに、最初の画面で迷子になると「やっぱり難しいかも」に変わる。その落差が離脱を生みます。

X のオンボーディングから学んだこと

オンボーディングの UI パターンにはいくつかの選択肢があります。ウィザード形式(ステップバイステップのモーダル)、ツールチップ形式(画面の要素を一つずつ説明)、そしてチェックリスト形式。

X(Twitter)のアカウント設定では、プログレスバー付きのチェックリストが使われています。このパターンが優れているのは、以下の3点です。

  1. 非強制的であること -- ウィザード形式と違い、ユーザーは自分のペースで進められる。モーダルで強制的にステップを踏ませると、「後でやりたいのに」というストレスが生まれる
  2. 全体像が見えること -- 「あと何ステップ残っているか」が一目でわかる。ゴールが見えると人は動きやすい
  3. 達成感があること -- チェックが一つ埋まるたびに進捗バーが伸びる。ゲーミフィケーションの効果で「全部埋めたい」という心理が働く

Wakulier でもこのパターンを採用しようと決めました。ウィザード形式はファーストインプレッションのコントロールには強いですが、「まず触ってみたい」タイプのユーザーにはストレスになります。ツールチップ形式は文脈に沿った説明ができる反面、画面遷移すると消えてしまい、全体像がつかめません。チェックリスト形式は「今どこにいて、あと何が残っているか」を常に提示できる点で、Wakulier のようにセットアップ項目が複数あるサービスに適していました。

ただし、X のデザインをそのままコピーするのではなく、Wakulier の利用フローに合わせたステップ設計が必要でした。

ステップ設計の判断 -- いくつが最適か

オンボーディングチェックリストで最も悩んだのは、ステップ数です。多すぎるとユーザーは「面倒だ」と感じて離脱するし、少なすぎると初期設定が不十分なまま使い始めてしまう。

この判断について、Claude Code と相談しました。

ZeronovaZeronova
オンボーディングのステップ数を決めたい。Wakulier は依頼者向けだから、「プロフィール設定」「最初の案件登録」「料金表の設定」「ワーカーへの初回依頼」くらいを考えている。4ステップだけど、多すぎないかな。
Claude Code
4ステップは許容範囲ですが、「ワーカーへの初回依頼」はハードルが高いかもしれません。相手がいないと完了できないステップは、ユーザー単独ではクリアできず、チェックリストが完了しないまま残り続けるリスクがあります。3ステップに絞って、依頼はオンボーディング後の自然な流れに任せるのはどうでしょうか。
ZeronovaZeronova
たしかに、相手が必要なステップは自分で完了できない。3ステップでいこう。プロフィール、案件登録、料金表。この3つが揃えば「使い始められる状態」にはなる。

この判断は重要でした。オンボーディングチェックリストは「全部埋められる」ことが前提です。他人の行動に依存するステップを入れてしまうと、いつまでもチェックが埋まらず、達成感が得られません。ユーザー自身の操作だけで完了できるステップに限定する。これがポイントでした。

最終的に設定した3ステップはこうなりました。

ステップ内容目的
プロフィール設定名前・連絡先・事業情報信頼性の確保
最初の案件登録案件名・概要・納期コア機能の体験
料金表の設定サービスメニュー・価格依頼受付の準備

横スクロールカードと進捗バーの設計

ステップが決まったら、UI の設計です。開発日記には以下の記載があります。

  • X風のセットアップガイド
  • 横スクロール可能なカード
  • 進捗バー

横スクロール可能なカード形式を選んだ理由は、モバイルファーストの考え方です。Wakulier のユーザーであるフリーランスは、移動中にスマホで確認することが多い。縦に長いチェックリストだと画面を圧迫しますが、横スクロールのカードなら最小限のスペースで全ステップを表示できます。

Claude Code に実装を依頼した際、各カードには以下の情報を含めました。

  • ステップ番号とタイトル
  • 簡潔な説明文(1行)
  • 完了/未完了のステータスアイコン
  • 該当ページへの導線ボタン

進捗バーはカードの上部に配置しました。「1/3 完了」のように分数で表示し、バーの色は進捗に応じて変化します。0% のときはグレー、途中は黄色、全完了でグリーン。X のUIと同様に、視覚的なフィードバックを重視しました。パーセンテージではなく分数にしたのは、ステップ数が3つと少ないため。「33%」より「1/3」の方が、残りのタスク量が直感的にわかります。

// 進捗バーの色分けロジック
const getProgressColor = (completed: number, total: number) => {
  const ratio = completed / total;
  if (ratio === 1) return 'bg-green-500';
  if (ratio > 0) return 'bg-yellow-500';
  return 'bg-gray-300';
};

「完了したら消える」設計

開発日記の「学んだこと」セクションに、こう記録していました。

オンボーディングは「完了したら消える」設計にする

これは一見当たり前に思えますが、重要な判断です。全ステップを完了したユーザーにとって、チェックリストはもはやノイズでしかありません。ダッシュボードの一等地を占拠し続けるのは邪魔です。

Claude Code で実装したのは、全ステップ完了後にチェックリスト全体をフェードアウトさせ、代わりに「セットアップ完了!」という短い完了メッセージを表示する仕組みです。完了メッセージも数秒後に消え、通常のダッシュボードに切り替わります。

ただし、完了状態は DB に記録します。一度消えたチェックリストが再び表示されることはありません。ユーザーが「もう見た」ものを二度見せないのは、UX の基本です。

ここで気をつけたのは、「×ボタンで閉じる」機能をあえて付けなかったことです。チェックリストが邪魔に感じるなら、それは全ステップを完了すれば解決する問題です。スキップ手段を用意すると、本来必要な初期設定を飛ばしてしまうリスクがあります。完了することだけが「消す方法」という設計にすることで、最低限のセットアップを確実に促す狙いがありました。

中間状態の可視化

開発日記には、もう一つ重要な学びが記録されています。

提案中・調整中などの「中間状態」は全員に見えるべき

これはオンボーディングチェックリストとは直接関係ない文脈(納期変更提案の話)ですが、通底する考え方は同じです。ユーザーが「今どの状態にあるか」を常に把握できるようにする。

チェックリストでいえば、各ステップの状態は3つあります。

  • 未着手: グレーのアイコン、「設定する」ボタン
  • 途中: 黄色のアイコン、「続きを入力する」ボタン
  • 完了: グリーンのチェックマーク、完了日時の表示

特に「途中」の状態を明示することが大切です。プロフィールを途中まで入力して離脱したユーザーが戻ってきたとき、「あ、途中だった」とすぐ気づけます。「続きを入力する」というボタンラベルも、「最初からやり直し」ではないことを伝える工夫です。

「設定する」と「続きを入力する」。たったこれだけのラベルの違いですが、ユーザーの心理的ハードルは大きく変わります。「もう一度最初から入力し直すのか」と思わせたら、そこで離脱が起きる。入力済みのデータがちゃんと保存されていて、途中から再開できることをUIで示すだけで、復帰のモチベーションが変わります。

プロフィール完成度インジケーターとの関係

オンボーディングチェックリストと似た UX パターンに「プロフィール完成度インジケーター」があります。以前の記事「プロフィール完成度インジケーターでユーザーの入力率を上げる」で BandBridge での実装を紹介しました。

この2つは補完関係にあります。

パターン目的タイミング消える?
オンボーディングチェックリスト初回セットアップの完了登録直後のみ全完了で消える
プロフィール完成度インジケータープロフィールの充実常時表示消えない(100%でも表示)

オンボーディングチェックリストは「使い始められる状態」にするための短期的なガイド。プロフィール完成度インジケーターは「より魅力的なプロフィール」を目指す長期的なモチベーション装置。両方を組み合わせることで、初回体験から継続利用までをカバーできます。

Wakulier でも、チェックリストの「プロフィール設定」ステップは「名前と連絡先を入力する」程度の最低限です。その先の「事業内容を詳しく書く」「ポートフォリオを追加する」といった深い入力は、完成度インジケーターの役割になります。

この2つの境界線を引くのが、PM としては意外と難しかった。「料金表の設定」はオンボーディングに入れるべきか、完成度インジケーターに回すべきか。結論としては、料金表がないと依頼者が案件に値段をつけられないため、オンボーディングの方に入れました。「サービスを使い始めるために最低限必要なもの」がオンボーディング、「使い続けるうちに充実させていくもの」が完成度インジケーター。この線引きを意識すると、ステップの取捨選択がしやすくなります。

学んだこと

オンボーディングチェックリストの設計を通じて、いくつかの学びがありました。

ステップ数は「自力で完了できるもの」に絞る

他者の行動に依存するステップを入れると、チェックリストが永遠に完了しません。ユーザーが自分の操作だけで埋められるステップだけを含める。Wakulier では「ワーカーへの依頼」を外して3ステップにしたのが正解でした。

ウィザードではなくチェックリストを選ぶ理由

ウィザード(モーダル形式のステップバイステップ)は強制力がある反面、ユーザーの自由を奪います。「今はプロフィールより案件登録を先にやりたい」というユーザーに対応できません。チェックリストは順不同で進められるので、ユーザーのモチベーションに沿った体験を提供できます。

完了後は消す、ただし記録は残す

チェックリストは役目を終えたら消えるべきです。ただし、再表示しないために完了状態は DB に保存しておく。「一度消えたものがまた出てくる」のは、ユーザーにとってストレスです。

中間状態を見落とさない

「未完了」と「完了」の2値ではなく、「途中」という中間状態を明示する。これにより、離脱したユーザーが戻ってきたときのハードルが下がります。「最初からやり直し」ではなく「続きから」であることを伝えるだけで、復帰率は変わるはずです。

まとめ

Wakulier のオンボーディングチェックリストは、X のUIを参考にしつつ、フリーランス向けサービスの特性に合わせて設計しました。

  1. ステップは3つに絞る -- 自力で完了できるものだけ。多すぎると離脱、少なすぎると不十分
  2. 横スクロールカードで省スペース -- モバイルファーストの設計。進捗バーで全体像を可視化
  3. 完了したら消える -- 役目を終えたUIは撤退させる。ただし記録は残す
  4. 中間状態を明示する -- 「途中」を見せることで、復帰のハードルを下げる

初回体験の設計は、機能開発とは異なる難しさがあります。「何を見せるか」だけでなく「何を見せないか」「いつ消すか」まで考える必要がある。PM として、この視点を持てたことが一番の収穫でした。


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Zeronovaゼロノバ

Product Manager / AI-Native Builder

Web/IT業界19年以上・20以上のWebサービスを担当したPdM。東証プライム上場企業の子会社代表として事業経営を経験。現在はAIを駆使して企画から実装まで完結させる個人開発を実践中。

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